解錠師 スティーヴ・ハミルトン

日本語タイトルから紳士的な風貌の解錠マニア名探偵の話かと予想していたが、魅力的な不良がたくさん出てくる青春小説。

検索すると皆さん指摘しているように、映『ベイビー・ドライバー』を彷彿とさせる内容。

小学生の時、鍵っ子だった私は、鍵を忘れて家に入れない時、ヘアピン2本を使って解錠していた。 

指先に感じる手応えと開いた時の興奮。

もちろんいつも成功するわけではなく、雨樋を登って二階のベランダから入ったり、

誰か帰ってくるまで何時間も待ったりもしていた。

なぜあんなにも鍵を忘れていたのかは謎である。

故郷(ふるさと)を生きる-詩人・和合亮一と「石巻こけし」リニア | ベターライフチャンネル | スカパー!オンデマンド

先月、ナレーションの収録を行った番組が3月21日の21時半まで視聴できます。(終了しました)

番組「故郷を生きる」詩人・和合亮一と「石巻こけし」篇(30分)

企画監修・城戸朱理         プロデューサー・小野田桂子

詩人の和合亮一さんが、東日本大震災から8年目の宮城県石巻市を巡ります。

ポップカルチャーとこけしのミクスチャー、石巻こけしをはじめ、メロンパンが名物の萬楽堂白謙蒲鉾店石巻まちの本棚石ノ森萬画館サン・ファン館など、地元の人の顔が物語る石巻の生活。

ぜひご覧下さい。

『7人目の子』 エーリク・ヴァレア

時間の余ってる人にしかおすすめしないけど本作、とても幻想的で味わい深い作品です。

とにかく暗く、おぞましく、切ない、子供の頃の不安や恐怖を描ききっています。

これを読んでいる間はとにかく悪夢を見続けました。

冒頭から決闘により鼻を失った天文学者ティコ・ブラーエへのオマージュが織り込まれており、デンマーク生まれで自身も孤児であったという著者への想像力をかき立てられる。

子供時代の孤独をここまでの幻想小説として完成させた本作には感嘆せざるを得ない。

ぜひ気長に読んでほしい良作。しかし人を選ぶかも。。。

松屋のシータ

金曜夜の九時、仕事に疲れた私は持ち帰り牛丼を求めて入店する。

券売機に並び、最もポピュラーな牛丼並盛りを選ぶ。私の前にチケットを購入したサラリーマンでカウンターは満席だ。

コの字型のカウンターは十人程のサラリーマンによる黒系の色彩一色である。

肩が触れるかという距離感。

なぜかみな姿勢が良い。狭い中でのパーソナルスペース確保の為か。

持ち帰り専用カウンターの小さなスペースへ歩み寄ると、返す刀で暑いほうじ茶が供される。

今日のホール係は三十代前半の女性と、調理場にはもう少し年配の女性の二人である。

空いている時分であればものの二、三分で提供される持ち帰り牛丼だが、本日は満席以上に満席、私の次にも持ち帰り牛丼三つを購入意志のおばあさんが大荷物で佇む場所もなく控えている。

しかもこのおばあさんはタッチパネル式の券売機に対応できず、カウンター内から三十代前半女性店員が出てきてチケット購入の補助に付いた。

そんな彼女の大奮闘振りを宿り木のサラリーマンたちは着丼を待ちながら見るともなく見ている。なぜか皆、少し恥ずかしげだ。

ものすごい速さで注文をこなし、次々に暖かい料理が運ばれる。3秒差くらいでサラリーマンが割り箸をセパレートする音が響く。管理職もエンジニアも熱々のチーズハンバーグを口に運ぶ。総じて嬉しそうだ。

誰もが何となく楚々としているように感じるのは何故だろう。

その間にも床に落ちたレシートを拾い、カウンターを出入りしながらアクロバティックに飛び回る。かといって悲壮感も漂わせず、あせっていないわけでもない。

全力を出しながらも己のペースを乱さない。たとえ乱れていたとしてもそれが急カーブを曲がる蒸気機関車のような美しさ好もしさを保っている。

そんな三十代女性店員を明らかに店中の皆が尊敬し憧れた瞬間があった。

彼女の働きに対して襟を正した瞬間があった。

その時、狭い店内は大伽藍にも匹敵する聖なる空間へと変容した。

皆、限られた動作の中で彼女に対する感謝と尊敬をあらわそうと自ずと礼儀正しくなっていたのだった。

私も普通の感謝の言葉にそれ以上の思いを込めて牛丼並盛りを受け取った。

世界は広い。

そしてアイデアやコンセプトによって、
また別の言い方をするならば、心持ち一つで到達するゴールは全く違うのだ。

横断歩道を渡りながら思った。自分のいる地点からだけモノを見ていてはいけない。

牛丼を買いに行って思いがけず南米に旅行したような不思議な距離感の出来事だった。

停滞と移動

ちょうど十年住んだ部屋。

ここで十年間を過ごしたことが信じられない。

その間、私はいくつか仕事を変わり、夜はほぼ稽古という日々。

2011年の東日本大震災はその中でも大きい出来事だった。

震災前、すぐそこの通りを歩いていたときの身体感覚を覚えている。

ただひたすらぼんやりしていた。

所与のものをただあたりまえの権利として、否、権利としてさえ認識しないままに受け取り、疑問も感謝の念も持つことのない無関心さ、あるいは天真爛漫さ。

未来への漠然とした欲求、そしてその欲求が漠然としていることへの不安。

自分とも他者とも関係性が薄く、己の傲慢さにすら鈍感。

それを恥ずかしく思えるくらいには成長したのかもしれない。

2018年末はボヘミアン・ラプソディー

クリスマスは映画館で『ボヘミアン・ラプソディー』を楽しみました。

マーク・マイヤーズのカメオ出演、どこに出ているのか全くわからず。あとで検索して「こりゃ無理だ。」となりました。あまりに変装が巧すぎる。

『ウェインズ・ワールド』でボヘミアン・ラプソディーを知った者からすると、夢を持った若者が管理職へと変貌を遂げるドラマも見応えがありました。

『ウェインズ・ワールド』ファンにはこのカメオ出演はやっぱり嬉しいですよね。

生物学探偵セオ・クレイ 森の捕食者

主人公のセオ・クレイは一風変わった生物学者。

自然の植生を観察しつつ、自分で作った解析アプリを使って膨大なデータを読み解く。その方法が想像の斜め上を行く面白さだ。

バランスを欠いた自閉症気味の主人公は、自分の興味を引く分野に集中すると様子がおかしくなる。殺人事件の調査中でも、あまりの怪しさに自分が職質されてしまうという有様だ。

そんなコミュニケーション的にはバランスが悪いが、圧倒的な知識で最新機器を使いこなし情報処理能力は驚異的、というタイプに現代のヒーロー象を感じて目が離せない。

著者のアンドリュー・メインのプロフィールが「マジシャン、イリュージョン・デザイナー、作家」となっているのも興味深い所である。

断水してみてわかったこと

年末年始、ちょっとした手違いから水道が止まった。約二十日間。

変化。

掃除と名のつくものができないので、人も設備も少しづつ汚れてくる。

この「徐々に汚れてくる」加減は、一定の長さの断水を経験しなければ分からなかったことだ。
おいそれと手も洗えない。

基本、トイレが使えないので、就寝前はなるべく水を控える。

終始排泄の心配をしていないといけないので、集中して何かをするということができない。

帰宅時には手に持てるだけのミネラルウオーターを購入。

寒い時期のこと、朝はペットボトルの水を沸かしたお湯をミニタオルにかけて顔を拭く。(ガス、電気は無事。)

できるだけロスがないようにペットボトルの水で手を洗い、使用後は排水口洗浄の為にためておく。

歯磨き後などはこの排水口洗浄が大切だ。二次使用、三次使用と、水を使う順序に自ずと配慮せねばならない。

開栓後、約二十日振りに自宅でシャワーを浴びた。

三重苦のヘレン・ケラーが初めて水の概念を悟った時のような衝撃を感じたと言えば大袈裟だが、歓びのあまり何度も叫ばずにいられなかった。

かくも水というものは大切なものだ。

普段あまりにも無頓着を使っていたので貴重な体験であった。

晩酌の効用

私は一人のときは、お酒をほぼ飲まなかった。酔うと本が読めなくなるので。

飲酒して酩酊する時間など無駄、とさえ思っていた。

しかし、最近は時間と体調が許せば毎日飲むようにしている。

なぜかというと、毎日必ず晩酌をするという友人が言っていたことが気になったからである。

日々、仕事の帰り道に「このお酒にはこのおつまみが合う」などど考えながら買い物をするのが楽しいそうなのだ。

感動した。

これは自分になかった視点だ。

ある一点からの景色を見て、その他を無駄と切り捨てていた自分の未熟さを恥じた。

人間の文化はことごとく芸術なのだ。

しかし自分はけっこうな量を飲んでも酔わない。