「楽しい楽しいマクドナルドのお話を見終わったあとはマクドナルドに行きたくなる!」誰もがそういう作品だと思うはず。しかしまったく予想を裏切る展開が待っています。
隠された創業秘話
原題の”The Founder”とは「創業者」の意。1948年、モーリス・マックとリチャードのマクドナルド兄弟はファーストフード店マクドナルドを創業しました。三十秒でハンバーガーを提供するシステムを考案し、米カリフォルニア州サンバーナディーノに第一店舗を構えます。
そんな折、調理機器のセールスマンとして全米を駆け回るレイ・クロックが現れます。レイは野心が強く、目的のためならどんなに汚いことでもポジティブシンキングという名の元にやってのける人物。彼は後に法律的な意味でのマクドナルドの「創業者」となります。マクドナルド兄弟は店名を商標登録していなかったため、クロックに店と全国フランチャイズの権利を乗っ取られてしまうのです。
効率化を計りながらも質を落とさず丁寧な商品作りに勤しんでいたマクドナルド兄弟は、利益追求型の新自由主義時代の到来に為す術がありません。
正義は勝たない?!
正直で誠実な態度は市場原理主義に反します。正直ではいけないのです。積極的に人を騙し、自分と、自分の周囲にいる、自分にのみ富をもたらす少数のビジネスパートナーに富を分配することだけが最優先事項なのです。なるほど私たちが普段利用しているマクドナルドにこんな創業秘話があったとは。
二人で立ち上げた夢の事業を乗っ取られ、追い詰められていくマクドナルド兄弟を見ていると本当に嫌な気持ちになります。
しかし乗っ取った側のレイ・クロックからすれば、片田舎の小さな店を全国展開のみならず世界市場に押し上げた自分の功績は讃えられて良いものだという思いのみしかありません。実際このような態度を是とする層も多く、この映画の評価は二つに分かれています。
マクドナルド社はこの映画に出資したのか?
どう見てもマクドナルドに資する内容ではない本作ですが、そういう作品も大スターを起用し、商業的利益を上げるパッケージ商品として世に放つことができます。
米国にはフェアユース法というものがあり批評者が守られるという仕組みがあります。また市場経済の為せる技でもあります。充分な興行収入が見込めるのであれば製作側は利害関係を考慮した上でゴーサインを出す。だからマクドナルドの出資なしにこのような作品が存在できるのです。私たちが生活している社会そのものが今やレイ・クロックの申し子であると言えるでしょう。
権利を守りもし剥奪しもする。これもアメリカ、それもアメリカというわけです。さまざまな意味でアメリカとは興味の尽きない国です。
この映画の中で自分たちの夢を踏みつぶされたマクドナルド兄弟の姿。それは資本主義社会の中で徐々に行き場を失っていく私達の姿にほかなりません。世界で最も裕福な資本家26人の富は、貧困層38億人(世界の総人口の半分)の総資産額と同額だということです。今はコロナ禍中ですが、閉店する個人店を見る度にそのことがよみがえってきます。