こんにちはオイリュトミスト野口泉です。
映画『ゲット・ショーティ』や『ジャッキー・ブラウン』(原作は『ラム・パンチ』)の原作者として有名なエルモア・レナードの最新刊「オンブレ」を読んだので紹介します。
“伝説の男”を伝聞形式で語る神話的西部劇
幼少期にさらわれてアパッチ族に育てられた“伝説の男”「オンブレ」
オンブレとは「男(man)」という意味のスペイン語だ。黒い肌にブルーの瞳、一見白人のようだがアパッチ族の砂漠で生き抜く術も心得た孤高の主人公が、灼熱の荒野で悪党たちと息詰まる死闘を繰り広げる…
エルモア・レナードの犯罪小説を読んだことがある人は多いと思いますが、初期に西部劇を書いていたとは知る由もありませんでした。なんとそんな初期傑作二作品がこの度出版されたのです。書店で見つけて即購入しました。
訳は村上春樹さんです。
肉体的な極限状態で人がどのような態度をとるのか
この小説ではさまざまな背景の人物がマッドワゴン(いわゆる駅馬車)に乗り合わせます。
御者、17歳の少女、インディアン管理官夫妻、荒くれ者、そして語り部である青年と“男”(オンブレ)。この青年がオンブレとの出会いからことの次第を回想する、という形で物語は進んでいきます。
水を巡る攻防戦
灼熱の砂漠においても、オンブレはアパッチ・インディアンの中で育っているので、消耗しない水の飲み方を知っている。また砂漠を歩かねばならない時は一人だけカウボーイブーツを脱いで、見たこともないようなモカシンに履き替える。
そういった描写の端々がオンブレの人物像を浮かび上がらせます。
今期の猛暑、外を歩いてクラクラしながら、つい「オンブレならこんな時どうしただろうか」「水道が民営化されてと考えてしまいます。
どんな時でも孤独で冷静
物語が進むにつれ、マッドワゴンに乗り合わせた全員にそれぞれの精神的な極限状態が訪れます。
そんな中でオンブレは徹底的に孤独であり、思想的にも行動的にも自分だけのルールに従ってブレません。
なぜそんなに冷静でいられるのか。
人間を超えた透徹した冷たさ、それは感情という要素をそぎ落とさずには生きてこられなかったオンブレの半生を想像させます。
そんな生命の本質だけが冷たく輝いているような孤高の存在であるオンブレの壮絶な生い立ちが語られるでもなく語られます。レナードは語らずに匂わせることが最高に上手い作家です。
ネタバレになるので詳しくは書けないのですが、こういう人物がいる(小説の中だけど)のなら生きていける、もう少し頑張れる、そう思わせる主人公像を創作したレナードはすごい。脱帽というしかありません。
むき出しの欲望
そしてこの小説に出てくる悪役は本当に悪い。想像を絶するワルさです。でもそれがいい。ギリシャ神話なみにすべての登場人物のキャラが立ってます。
また人種差別が普遍的な人間の問題として淡々と描かれている。そこに説教くささや押し付けは一切ない。ただ特異な生い立ちを持つ一人の男が見る世界がそのまま綴られる。
欺瞞、裏切り、さげすみ、あらゆるみじめさ、うしろめたさを抱えた登場人物たちは、砂漠を生き抜くために彼を指針とするしかない。
そしてついに訪れる究極の選択のとき…!
文句無しにおもしろいので夏に読書したいと思っている人には絶対的におすすめします!
まとめ
犯罪小説家として有名なエルモア・レナード(1925-2013)の初期傑作作品集。エルモア・レナードは小学校5年生の時から芝居の台本を書いていたらしい。
村上春樹訳である。
人間の極限状態が描かれている西部劇。
御者メンデスのセリフがかっこいい。
現代人にとって新鮮な感覚で読める内容。
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古本屋さんで見つけたらぜひ。